ここは女王陛下のお気に入りの場所。
薔薇が埋もれんばかりに広い部屋の中に飾られている。
壁にもテーブルにも開け放たれた窓にも絨毯にも数え切れない幾千の赤。
ただ、その中に隠れるようにして白薔薇が一輪だけひっそりと紛れ込んでいた。
赤い薔薇を、そう命じたというのに飾られたのは白い薔薇だ。
もっとも白ではなく、ほんのりと赤みの差した淡い紅色。
たった一輪とはいえ罪は免れない。それがハートの女王陛下。
画廊に首が増えたのは言うまでも無かった。
むせ返るような薔薇の香りで血臭は掻き消され、微かに漂う程度。
その代りに首を刈った事実を主張する鈍色の鎌からは真新しい血が滴り落ちていた。
彼女のほっそりとした白い指先に握られた白薔薇はもう赤に彩られている。
たっぷりと血を吸った白薔薇は、他の赤薔薇と見劣りのない見事な真紅だ。
「白は嫌い」
アリスが赤が好きだといったから。
きっとこの赤い薔薇達を見て喜んでくれるわ。
「シロウサギも嫌い」
アリスを遠くに連れて行ってしまうから。
どんなにアリスを愛していても私から奪ってゆく。
「猫も嫌い」
いつか必ずアリスを辛い目に合わせるから。
そんな猫なんて首だけになってしまえばいいのよ。
可哀想なアリス、彼女は崩れ落ちるように絨毯の上で泣いた。
白い頬を伝い落ちる水滴は未だ乾き切らない血溜まりに混じった。
きっと薔薇が枯れ果てる頃になろうともアリスは戻ってこない。
彼女は真実を知ってたけれども偽りで塗り固めた世界で、ただアリスを待っていた。
誰が見ても可哀想な女王陛下、そう口にする光景だったが側には誰も居なかった。
幾千もの赤薔薇に囲まれて、ひとりぼっちの女王は涙を流す。
可哀想な女王陛下
<<薔薇は枯れてしまったわ、アリス>>
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過去Web拍手でした。ビル女がいいのになぁ。
この際、柱の影からビルが見てた事にしちゃいますか。
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